概要

三重大学は、心不全患者の健康管理と増悪予防を目的に、スマートフォンアプリ「ハートサイン」を開発しました。本アプリは、日々のバイタルや症状を記録・可視化するセルフケア支援ツールであり、医療機関との情報共有に対応しています。現在はAMED「予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発基盤整備事業(令和5年度)」に採択され、Fitbitなどウェアラブルデバイスとの連携による運動管理機能を追加した臨床研究“SHARE-CR”が進行中です。将来的には、マイナポータルや自治体との連携を通じて、全国展開を視野に入れた社会実装を目指しています。

背景/目的

心疾患はがんに次ぐ日本人の死因第2位(全体の約15%)であり、その中でも「心不全」は約4割を占め、患者数は全国で約120万人に達しています。高齢化の進展や生活習慣の変化に伴い、今後さらなる患者数の増加が予測され、「心不全パンデミック」は社会的課題となっています。

心不全は進行性の疾患であり、症状が悪化すると緊急入院が必要となり、1回あたりの入院費は100〜150万円にのぼることが報告されています。試算では、心不全患者全体の5%が減少するだけで年間600億円の医療費削減が見込まれるなど、早期発見・予防の重要性が高まっています。しかし、心不全の進行は息切れ・動悸・むくみなど日常のわずかな症状から始まるため、自覚しづらいことが多く対処が遅れる傾向があります。

このような課題を背景に、三重大学では、医療者と患者をつなぐ新たなセルフケア支援インフラとして、「ハートサイン」の開発を開始しました。アプリを通じて、日常的な健康記録、悪化リスクの自動評価、早期受診の促進を可能にし、緊急入院の抑制と医療費削減を目指します。

実績/取り組み内容

・健康管理アプリの開発開始(2021年):循環器専門医と看護師の豊富な経験と研究に基づいて開発。

・「令和3年度三重県クリ“ミエ”イティブ実証サポート事業」に採択:三重大学医学部附属病院にて実証事業を実施。その後も臨床研究として三重県内の複数の医療機関での利用を開始しています。

・「令和5年度 予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発基盤整備事業」(AMED)に採択:研究開発課題名「マイナポータルと連携した心不全の予防を目的とするPHRアプリを基盤とした健康増進支援サービスの構築」とし、本取り組みを進めています。

・臨床研究「SHARE-CR」開始:急性冠症候群(心筋梗塞)患者を対象に、Fitbitを用いたリモート運動指導機能の有効性を検証中。

今後の展望

・一般公開に向けた機能開発・実証拡大:現在は臨床研究用アプリとして限定運用中ですが、研究によって得られたエビデンスをもとに非医療機器(Non-SaMD)としての社会実装を目指し、自治体・企業との連携を進めていきます。

・災害時やパンデミック下での活用:遠隔での疾病管理機能を活かし、医療アクセスが制限される状況下での新たなインフラとしての期待。

・スマートシティを見据えた地域医療機関とのデータ連携を実現:心疾患リスクのある住民を対象に予防的介入を行うことで、地域全体の健康増進と医療費抑制に貢献します。