概要
三重大学では、紹介・逆紹介時の医療情報(画像・紹介状・検査結果等)をクラウド上で迅速かつ安全に共有可能とする「紹介・逆紹介支援DXシステム」を開発しています。電話やFAX、光ディスクに依存した従来の業務フローを刷新し、県内医療機関間の情報連携を円滑化することで、医療の質向上と医療従事者の負担軽減を目指します。本システムは、画像転送機能やチャット機能、医療情報転送機能を含むアプリケーション開発を完了しており、県域全体での実装に向けた取り組みを行っています。
背景/目的
高齢化や人口減少が進む中で、医師の地域偏在や診療科の不足、医療の高度化が進行し、三重県内では二次医療圏内で入院や救急医療を完結することが困難なケースが増加しています。実際に三重大学病院では、患者の過半数が二次医療圏外から紹介されており、県内医療機関間の連携強化は喫緊の課題となっています。
しかしながら、現行の紹介・逆紹介業務には多くの課題が残されています。診療予約の調整には依然として電話やFAXが用いられ、紹介状や検査結果、CT・MRIなどの画像は、患者が光ディスク等で物理的に運搬するのが一般的であり、紹介先の医師が診察時に初めて情報を見るという流れは、医療の質にも少なからず影響を及ぼしていると考えられます。また、この運用下では、紹介元では画像データの抽出やディスク作成に手間がかかり、紹介先では取り込み(画像・文章のOCR)や閲覧の作業負荷が発生するなど、全体として業務効率を低下させコストを増大させる要因となっています。
三重大学は2010年より「三重医療安心ネットワーク」を通じた県域医療連携に取り組み、現在では県内17病院・366施設が参加する基盤を構築しています。この実績をもとに、次なるステップとしてクラウド技術を活用した紹介・逆紹介支援DXシステムの構築に着手しました。
本システムでは、患者の同意に基づいて診療情報や画像データを迅速かつ安全に共有できる環境を整備し、医療の質向上と業務効率化を同時に実現することを目指しています。また、チャット機能により、多忙な医療従事者間でも非同期で柔軟な情報共有が可能な仕組みを提供します。
実績/取り組み内容
・画像転送システム:PACS(医療用画像管理システム)間でCTやMRI画像をセキュアに共有可能な画像転送システムを構築。救急医療や紹介・逆紹介での迅速な画像参照が可能に。
・医療情報の送受信機能:紹介業務における紹介状、診療申込書、予約票といった書類を電子化し、Web上で送受信できるアプリケーションを開発。現在、現場からのフィードバックを受けて改良を進行中。
・グループチャット機能:スムーズな患者受け入れのために、患者様ごとに情報交換ができるチャット機能を搭載。
・三重県医療介護総合確保基金による支援採択:本事業は2024・2025年度にわたり、県の支援(補助額:75,400千円)を受け、クラウド基盤の構築と実証を行っております。
今後の展望
・本格運用を見据えて、桑名市総合医療センターと永井病院をはじめとする県内複数の連携医療機関との意見交換・連携体制の調整を実施しています。
・厚労省が推進する「電子カルテ情報共有サービス」や標準型電子カルテとも将来的に連携可能な設計とし、全国モデルとなる県域医療情報連携プラットフォームの確立を目指します。
